『未完の火の鳥』
 スポーツクラブで走っている未知に声をかけてくる杉本。未知の背中に画がうっすらと見えるという。未知の、昔つきあっていた彼氏は彫り師で、彼女に手塚治虫の『火の鳥』を彫ったのだ。だが、彫っている最中に彼氏はアメリカに留学、そのまま向こうで結婚してしまったらしい。背中の火の鳥は未完のままだ。

 なにごとにも『初めて』、ということはあるわけですが、初めてやることであったとしても、絶対に失敗できない職業というのが存在します。医者の手術とか、いったいどうやって練習するのだろうといつも不思議に思いますね。最初は先輩達がやっているのを見るなり、手伝うなりしているのだろうとは思うのですが、自分が執刀する最初という瞬間があるわけじゃないですか。まあ、医者の上手い下手とか、あ、今、失敗した、とかは素人にはわかりづらいものですが、彫り師となると、結果が見た目ですから、どれくらいの技術を持っているのかというのは一目瞭然です。元彼が彫り師で・・という話をやろうとして、では、人の体に墨を入れて、失敗する人はいないのか? とネットで調べてみると、やはりいるんですね。虎を彫ってもらったのに、どこからどう見ても気のいい猫にしか見えないとか。恐いですよね。まあ、それは話に使いたいからということではなくて、自分自身の好奇心から調べた事で、実際には書くにあたって彫り物の値段とか期間とかを把握しておきたかったということなんですけど。ちなみにこれも実話が元になっています。画は火の鳥ではありませんでしたが・・

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